法律事務所の事務員に興味はあるけれど、「法律の知識がない自分に務まるのか」「実際に何をする仕事なのか」が見えずに、応募をためらっていませんか。求人票の「一般事務」「弁護士の補助」という言葉だけでは、毎日の仕事は想像しにくいものです。
- 法律の知識がなくて不安
- 仕事内容が想像できない
- 電話で何を聞かれるか心配
- 一般事務との違いが不明

難しい法律の話ばかりしているイメージで…。未経験の私でも務まるでしょうか。

最初から法律に詳しくなくても大丈夫です。私も知識がないまま入り、仕事をしながら一つずつ覚えていきました。
私は法律事務所で、通算5年以上事務員として働いてきました。入所したときは法律事務所で働くのが初めてで、その前は製造業で総務経理をしていました。任されてきた仕事は、すべて弁護士の指示と監督のもとで行う補助です。
この記事では、実際の仕事内容、一般事務との違い、未経験からできる仕事、私が働きながら身につけてきたことをお伝えします。事務員にも、業務上知り得た秘密を漏らさないことが求められるため、事務所や事件、依頼者の方が分かる話は書いていません。
法律事務所の事務員の仕事内容

法律事務所の事務員の仕事は、大きく分けると「弁護士の秘書としての仕事」と「事件の手続きを支える補助の仕事」の2つです。規模の大きい事務所では、秘書とパラリーガルのように担当を分けているところもあります。私の場合は、秘書業務と法律事務の補助、さらに総務や経理まで兼ねていました。経験した分野は民事・家事・相続・成年後見・破産・債務整理などで、刑事事件には携わっていません。どの仕事にも共通するのは、最後に判断するのは弁護士だということです。ここでは、担当してきた仕事を分野ごとに紹介します。
電話と来客の対応
事務所にかかってくる電話に最初に出るのは、多くの場合、事務員です。相手は、初めて相談を希望する方や依頼者だけではありません。
- 裁判所や事件の相手方
- カード会社などの債権者
- 銀行などの金融機関
- 市役所の福祉担当課や地域包括支援センター
- 病院や介護施設、ケアマネジャー
- 社会福祉協議会
- 被後見人の親族や近隣の方
なかでも成年後見に関する電話は、本当にさまざまでした。
成年後見をどのくらい扱うかは、法律事務所によって異なります。私が勤めていた事務所は成年後見に継続的に取り組んでおり、複数の案件を担当していました。そのため、事務員が金融機関や市役所、病院、介護施設などと連絡を取り、弁護士の指示に沿って手続きのために動き回ることも少なくありませんでした。
成年後見人の業務には、本人の財産を管理することに加え、生活・療養・介護などに必要な手続きを行う「身上保護」があります。
金融機関とは、主に後見開始後の口座管理に必要な届出で連絡を取りました。日常の支払いについて連絡を取る相手は、送金先となる病院や介護施設などです。このほか、入退院や施設での生活についてケアマネジャーと話したり、近隣の方から庭木について連絡を受け、弁護士の指示のもとでシルバー人材センターへ作業を依頼したりすることもありました。
成年後見人等には、弁護士のほか、司法書士や社会福祉士なども選任されます。最高裁判所の統計(令和7年)では、成年後見人等として最も多く選ばれているのは司法書士です。関わる職種や役割分担も、案件や地域によって異なります。
事務員が自分で対応方針を決めるのではありません。相手の話を正確に聞き取り、必要な情報を整理して弁護士へ報告し、その指示に沿って連絡や手続きの補助を行います。
私がいた事務所では、初回相談の受付時に、氏名・連絡先・相手方・期限など、事務所で決められた受付項目を確認していました。詳しい事情の聴取や法的な見通しの判断は弁護士が行い、事務員は受付内容を正確につなぎます。
裁判に使う書類の準備
訴訟では、弁護士が作成した訴状や、裁判所に出す書類の準備を手伝います。私が担当していたのは、次のような作業でした。
- 訴状の誤字脱字の確認
- 住所や金額などの記載と資料の突き合わせ
- 添付する戸籍や住民票などの取り寄せ
- 証拠説明書の準備
- 裁判所に納める郵便切手や収入印紙の準備
訴状の確認では、誤字脱字だけでなく、氏名が戸籍などの原資料と一致しているか、住所や金額に食い違いがないかを照合しました。追記や段落の入れ替えによって、項目番号や証拠番号、本文中の参照先がずれていないかも確認します。
さらに、弁護士が示した訴額や請求内容を前提に収入印紙額を確認し、弁護士の指示や裁判所の案内に沿って添付書類がそろっているか、提出先として記載された裁判所に疑問がないかもチェックしました。ただし、管轄や請求内容、必要書類を最終的に判断するのは弁護士です。気づいた点は自分で決めず、必ず弁護士に伝えて判断を仰ぎます。
事務職員能力認定試験の勉強で、訴状の構成や民事訴訟の流れを学んでからは、書面全体のつながりまで見ながら確認できるようになりました。経験を重ねるにつれて確認を任せてもらえる場面が増え、学んだ知識が弁護士からの信頼につながったと感じています。
相続や後見に関わる事務
相続の案件では、相続人調査の補助が大きな仕事でした。亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を、つながりを確かめながら集めていきます。
- 弁護士名義の職務上請求書を準備し、指示に沿って市区町村へ発送
- 各市区町村へ小為替を添えて郵送
- 転籍先の市区町村へさらに請求
- そろった戸籍から親族関係図を作成
- 相続人の住民票を取り寄せて住所を確認し、通知の発送に備える
途中で、相続人だと思っていた方がすでに亡くなっていると分かれば、その方のお子さんへとさらにたどります。戸籍はどんどん増えていくので、丁寧に整理しないと混乱してしまう作業です。
成年後見開始の申立てを準備するときは、本人の財産や生活の状況、支援が必要な事情を調べ、弁護士の指示に沿って資料をそろえます。後見人に選任されたあとは、登記事項証明書を取得し、金融機関での口座管理や年金の受取口座に関する手続き、市役所など関係機関への連絡を進めました。その後も、通帳の管理や支払い、入退院や施設探しに関わる事務、家庭裁判所へ提出する定期報告の書類づくりを補助しました。
成年後見そのものは、本人が亡くなった時点で終了します。ただ、そこで実務のすべてが終わるわけではありません。管理してきた財産の収支をまとめ、家庭裁判所へ報告し、相続人などへ財産や記録を引き継ぐための終了事務が残ります。
家族がいない場合や、相続人がいてもすぐに引き継ぐことが難しい事情がある場合には、終了後の事務や関係者との調整にも慎重な対応が必要でした。制度上の終了と、現場で必要な引き継ぎが同時に完了するとは限らない――それも後見業務の難しさだと感じました。
債務整理に関わる事務
債務整理の案件も数多く担当しました。弁護士が依頼を受けると、まず債権者に「受任通知」を送ります。弁護士が代理人として依頼を受けたことを債権者へ知らせ、以後の連絡窓口を弁護士へ移すための通知です。貸金業者などは、この通知を受け取ると、原則として本人へ直接取り立てることができなくなります。
- 依頼者が持参した督促状などから送り先を整理
- 受任通知の発送準備
- 債権者からの電話の取り次ぎ
- 過払い金の計算表への入力と確認
- 訴訟になった場合の印紙や切手の準備
案件が多かったので、よく使う送り先はラベルシールを用意しておき、発送の時間を短くする工夫もしていました。過払い金を請求するときは、利息制限法に沿った計算式が入ったExcelのファイルに取引の数字を入力し、確認する作業も受け持っていました。
秘書と経理の仕事
法律事務所の事務員は、手続きの補助だけをしているわけではありません。弁護士のスケジュール管理や来客対応といった秘書業務に加えて、私は事務所の総務や経理も兼ねていました。
- 弁護士の予定、裁判期日、報告期限の管理
- 依頼者からの預り金の台帳管理
- 小口現金や印紙・切手の台帳管理
- 請求書の作成と入金の管理
- 事件記録の整理
スケジュール管理は、弁護士の予定をカレンダーに入れるだけではありません。成年後見の定期報告は案件ごとに時期が異なり、相続財産の管理に関する報告も、家庭裁判所から指定された時期に合わせて進める必要がありました。相続では、相続放棄のように期限が定められた手続きもあります。
そこで、事件ごとの期限と準備を始める時期を一覧で管理し、提出が近づく前から必要な資料をそろえていました。複数の報告や期日が重なる時期を早めに把握し、弁護士に確認してもらう時間も含めて、仕事の順番を調整することも事務員の役割でした。
一般の会社の秘書や経理と似ている部分も多いのですが、このような期限管理や、依頼者からお預かりするお金の管理には、法律事務所ならではの重さがあります。
一般事務との4つの違い

私は法律事務所のほかに、製造業の総務経理や、現在の会計事務所での経理も経験してきました。パソコンでの書類作成、電話応対、お金の管理など、一般事務の経験がそのまま活きる場面はたくさんあります。一方で、同じ事務でも法律事務所ならではの違いがありました。いくつかの職場で働いてきて、特に大きいと感じた違いは次の4つです。これから法律事務所を目指す方は、この違いを知っておくと、入ってからの戸惑いが少なくなるはずです。
期限の重さ
法律事務所には、次のような期限が日常的にあります。
- 裁判の期日
- 書面の提出期限
- 家庭裁判所への定期報告の期限
- 判決に不服を申し立てる期限
こうした期限を過ぎてしまうと、依頼者の不利益に直結します。一般の会社でも締め切りは大切ですが、取り返しのつかない期限が当たり前のようにあるのは、法律事務所の大きな特徴だと感じました。
対応する相手の幅
一般事務で電話や来客に対応する相手は、主に取引先やお客様です。法律事務所では、トラブルを抱えて不安な方や、利害が対立する相手方からの電話も受けます。
ときには、弁護士本人には言いにくい不満を、事務員に強い口調でぶつける方もいました。そんな場面でも相手の感情に引きずられず、かといって気持ちを軽く扱うこともしません。言葉を選びながら話を聞き、感情と事実を分けて弁護士に報告します。電話応対で意識していたことは、秘書検定1級の記事でも詳しく書いています。
扱う情報の重さ
法律事務所で扱うのは、借金、家族の問題、病気、財産など、人に知られたくない情報ばかりです。機密を扱う重さは会計事務所でも変わりませんが、法律事務所には「事件の相手方」がいます。
- 電話の相手がだれかを確かめてから話す
- 事務所の外で仕事の話をしない
- 書類を送る前に宛先と中身を確かめる
法律事務所では、詳しい相談を聞く前に、相談者本人と事件の相手方の氏名を確認します。弁護士法第25条では、相手方の協議を受けて賛助した事件や、相手方の依頼を承諾した事件、相手方から受けた協議の程度や方法が信頼関係に基づくと認められる事件など、弁護士が職務を行えない場合が定められています。
たとえば、妻から離婚について詳しい相談を受けたあとに、夫から同じ問題について相談の電話がかかってきた場合、夫の相談を受けられないことがあります。しかし、その理由として「妻から相談を受けている」と伝えることもできません。妻が弁護士へ相談した事実そのものを、夫に知らせることになるからです。事務員はその場で答えず、先の相談の有無や内容にも触れないまま、回答は弁護士に任せていました。
私がいた事務所では、親子や夫婦が一緒に相談へ来た場合も、だれからの相談として受けるのかを曖昧にしないよう徹底していました。受付の最初に相手方を確認し、秘密を守りながら適切に弁護士へつなぐことも、事務員の大切な役割です。
一つの不注意で、依頼者の情報が相手方に伝わってしまうおそれもあります。小さな確認の積み重ねが、依頼者を守ることにつながります。
権限の線引き
一般事務との一番大きな違いは、ここかもしれません。会社の事務なら、経験を積むほど自分で判断できることが増えていきます。
けれど法律事務所では、どれだけ経験を積んでも、法律的な判断をするのは弁護士です。事務員の仕事は、弁護士の指示と監督のもとで行う補助にとどまります。この線引きはとても大切なので、このあとの章で詳しくお伝えします。
未経験でもできる仕事

結論から言うと、法律事務所の事務員は未経験から始めることができる仕事です。私自身、法律事務所で働くのは初めてでした。ただし、最初からすべての仕事ができるわけではありません。入ってすぐ任されやすい仕事と、経験を積みながら身につけていく仕事があります。日弁連が用意している新人向けの研修も、日常業務と事務職員の役割、書類の取り寄せ方、裁判の仕組み、事務職員のための倫理といった基本から始まっています。採用の考え方は事務所ごとに違いますが、ここでは仕事の段階に分けて見ていきましょう。
最初に覚えることと任されやすい仕事
私が法律事務所へ入ったとき、個々の作業より先に教わったのが、利益相反を避けるための確認でした。詳しい相談内容を聞く前に相談者本人と相手方の氏名を確認し、事務所で過去に相談や依頼を受けていないかを確かめます。事務員が利益相反に当たるかを判断するのではなく、少しでも可能性があれば、それ以上話を聞かず弁護士へ確認します。
この基本を覚えたうえで、一般事務の経験がそのまま活きる次のような仕事を、一つずつ任されていきました。事務所によって違いはありますが、未経験の方が最初に覚える仕事は、こうしたものが中心になると思います。
- 初回相談の受付前に、相談者と相手方の氏名を確認
- 電話の取り次ぎと来客の案内
- 郵便物の受け取りと発送
- 書類のコピーやファイリング
- WordやExcelでの入力
- 弁護士の予定の登録
地味に見えても、どれも事務所の信用に関わる仕事です。たとえば発送で宛先を取り違えれば、ほかの方の情報を漏らしてしまうことにもなりかねません。
経験を積んで身につく仕事
一方で、次のような仕事には、法律や手続きの知識が少しずつ必要になっていきます。
- 戸籍を読みつながりを確かめる作業
- 訴状や添付書類の確認
- 裁判の期日や報告期限の管理
- 後見や財産管理の報告書類の補助
- 債務整理の計算や書類の補助
こうした仕事も、弁護士の指示を受けながら実務の中で覚えていくものです。分からないことをそのままにせず、確認しながら一つずつ身につけていけば、できることは着実に増えていきます。
未経験から入った私の場合
面接では、法律の知識がないことを不安に感じていると正直に伝えました。すると所長弁護士から「そのままで良い」と言っていただき、その言葉に安心して入所しました。
法律の知識は、働きながら少しずつ身につけていきました。支えになったのは、日弁連の「事務職員能力認定試験(受験サイトでは『日弁連法律事務職員能力認定試験』と表記)」の勉強です。知識が実務とつながってきたときは、弁護士を支える事務員として一段強くなれた気がして、誇らしかったのを覚えています。
事務職員能力認定試験は、法律事務所等で弁護士業務を補助していない一般の求職者が、就職前に取得しておける試験ではありません。
受験資格は、出願の時点で法律事務所に勤務する事務職員、または公務所や企業その他の団体で弁護士の事務を補助する人とされています(日弁連「第18回事務職員能力認定試験 受験要項」)。資格を取ってから応募するのではなく、働き始めてから目指せる試験です。
事務員が判断してはいけないこと

法律事務所で働くうえで、未経験の方に一番知っておいてほしいのがこの章です。弁護士法では、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を扱うことを仕事にするのは禁止されています。また弁護士職務基本規程では、弁護士は事務職員が違法・不当な行為をしたり秘密を漏らしたりしないよう、指導・監督する義務を負います。日弁連が示している事務職員の学習事項にも、守秘義務や非弁活動の禁止、報告・連絡・相談が、事務職員の倫理として並んでいます。ここでは、事務員として働くうえで私が守ってきた線引きをお伝えします。法律の解釈を示すものではない点は、ご了承ください。
法律相談には答えない
たとえば相談の電話で見通しを聞かれても、事務員が答えてはいけません。次のようなことは、すべて弁護士が判断します。
- 法的な見通しを伝えること
- 依頼を受けられるかどうかの約束
- 書面に何を書くかの決定
- 相手方との条件のやり取り
聞かれたときは、弁護士に確認する旨を伝え、聞いた内容を正確に弁護士へつなぎます。答えられないことを答えないのは、不親切ではありません。
交渉は伝言をつなぐだけ
債務整理では、受任通知が債権者へ届く頃に、問い合わせの電話が入ることを見越して対応していました。利息の扱いなどを話し合う交渉は、弁護士が行うものです。弁護士が不在のことも多く、事務員は相手の話を正確に聞き取って、伝言として弁護士につないでいました。
ここで、つい「たぶん大丈夫だと思います」といった一言を返してしまうと、事務所としての回答だと受け取られ、事務員の権限を越えた対応になりかねません。自分の言葉で答えを出さないことが、依頼者と事務所を守ります。
慣れた頃にこそ危うい線引き
実務の中で私が感じていたのは、法律事務所でも会計事務所でも、事務員がベテランになるほど「できてしまう」ことが増えていく危うさです。仕事の流れが分かってくるほど、自分でもできると思えてしまう場面が出てきます。
事務員が補助の範囲を越えた仕事をすれば、依頼者や事務所の信頼を損ない、弁護士の指導・監督にも関わる問題になり得ます。そもそも、してはいけないことです。
支えたい相手の信頼を守るためにも、どれだけ慣れても線は越えない。これが事務員にとって一番大切な約束だと思っています。
報告までが事務員の仕事
線引きを守るというのは、何もしないことではありません。聞き取った事実を整理し、期限や急ぎかどうかを添えて弁護士に報告する。そこまでを正確にやり切るのが、事務員の大切な仕事です。
- 判断するのは弁護士
- 事務員は事実を集めて整理する
- 迷ったら自分で決めずに確認
- 聞いた内容は正確に報告
- 仕事で知った情報は外に出さない
どれも特別な知識がなくても、今日から意識できることです。未経験の方ほど、この5つを入所した日から大切にしてください。
法律事務所の事務に向いている人

求人サイトなどでは、パソコンのスキルやコミュニケーション力が挙げられることが多いです。もちろんどちらも大切ですが、5年以上働いてきた私が一番大切だと感じているのは、スキルより仕事への姿勢でした。法律の知識やパソコンの操作は、働きながら身につけることができます。一方で、仕事への姿勢は、入ってから急に身につくものではありません。ここでは、実際に働く中で特に大切だと感じてきた4つの姿勢をお伝えします。
知識より誠実な仕事ぶり
採用方針は事務所ごとに異なりますが、私が働く中で感じたのは、面接では法律の知識だけでなく、弁護士の指示を素直に受け止められるか、誠実に仕事ができるか、チームとして気持ちよく働けるかも見られているということでした。これから仕事を任せ合う「相棒」になれそうか、その可能性を人柄から確かめているのだと思います。
私自身は、特別なことをしていたつもりはありません。前の職場で身についていた、当たり前の仕事ぶりを続けていただけです。だからこそ実感したのは、法律の知識がなくても、誠実に仕事をする姿勢は何より求められているということでした。実際に、法律事務所の求人で秘書検定取得者を優遇しているものを見たこともあります。法律知識だけでなく、相手を支える姿勢や応対力も大切にされているのだと感じました。
確認を面倒がらない姿勢
法律事務所では、思い込みで進めた小さなずれが、大きな問題につながります。
- 住所の一文字
- 金額の一桁
- 期限の一日
たとえば訴状を確認するときは、誤字脱字だけでなく、氏名が戸籍などの原資料と合っているか、追記や段落の入れ替えで項目番号や証拠番号の参照先がずれていないかまで見ます。「たぶん合っている」で進めず、原資料に戻って一つずつ確かめる作業です。
向いているかどうかは、こんなところで分かります。
- 一度書いた数字を、もう一度見返すのが苦にならない
- 分からないことを「たぶん」で済ませず、聞ける
- 同じ確認を、毎回同じ手順でできる
気になったことをそのままにせず、確認できる人は信頼されます。分からないことを自分の判断で進めないのは、慎重すぎるのではなく、この仕事では正しい姿勢です。
秘密を守り続ける意識
仕事で知った情報は、家族や友人にも話せません。事務所を離れたあとも、話してよい情報になるわけではありません。
この記事でも、事務所や事件、依頼者の方が分かる話は書いていません。話したくなる場面でも黙っていられることは、法律事務所で働く人に欠かせない資質です。
支えることを喜べる気持ち
法律事務所の事務員は、弁護士が本来の仕事に集中できるよう、次に必要になるものを考えて準備する仕事でもあります。
私が心がけていたのは、弁護士が来る前に、その日に確認してもらいたいことや進めてもらいたいことを整理しておくことでした。事件ごとに優先順位をつけ、必要な記録を順番に用意します。ただし、すべてを一度に渡すと混乱しやすいため、一冊ずつ、その事件の状況と確認してほしいことを伝えていました。
急ぎでない内容はメールで連絡しておけば、弁護士が落ち着いたときに確認できます。一方で、忙しいと、読んでいても対応を忘れてしまうことがあります。相手の様子を見ながら、よいタイミングでもう一度声をかけることも大切でした。
相談の予約が続く日は、相談内容に応じた資料も先に準備しました。破産の相談であれば申立てに必要な資料の案内、相続の相談であれば相続用の案内を用意します。受任につながる可能性がある場合は、委任契約書や委任状など、事務所で定められた書類もすぐに渡せるよう整えていました。
また、事件記録の綴じ方、メールの書き方、文章の形、校正の方法など、仕事の進め方には弁護士ごとの好みがあります。自分のやり方を押し通すのではなく、相手が確認しやすく、仕事を進めやすい形に柔軟に合わせることが、よいコミュニケーションと信頼につながると感じました。
法律的な判断を先回りして行うのではなく、弁護士が判断し、すぐに行動できるところまで整えておく。このような気配りも、事務員だからこそできる大切なサポートです。
- 当たり前のことを丁寧に続けられる
- 気になったことを確認できる
- 相手のやり方に柔軟に合わせられる
- 聞いた話を人に漏らさない
- 自分で決めずに相談できる
- だれかを支えることが好き
法律事務所の事務がきつい場面

「法律事務所の事務はきつい」と検索する方もいると思います。正直に言えば、楽な仕事ではありません。ただ、何がきついのかは、事務所が扱う分野や規模によってかなり違います。ここでは職場の人間関係や待遇の話ではなく、仕事そのものの大変さとして、私が実際に大変だと感じた場面をお伝えします。あらかじめ知っておけば、入ってから「こんなはずではなかった」と感じることも減らせるはずです。
預かったお金を扱う緊張
成年後見では、被後見人の方の通帳をお預かりし、後見人である弁護士のもとで必要な支払いの手続きを行います。
- 支払いの金額と相手の確認
- 通帳と記録の突き合わせ
- 1年間の収支のとりまとめ
ご本人の大切な財産なので、一つの支払いにも、とても慎重さが求められます。一般の会社の経理とは違う種類の緊張感がありました。
戸籍をたどり続ける根気
相続人調査では、戸籍を取り寄せるたびに、次に請求する先が見えてきます。転籍先へ請求し、相続人の方がすでに亡くなっていれば、さらにその先をたどります。
戸籍の枚数はどんどん増え、つながりを見失うと混乱してしまいます。一枚ずつ確かめながら進める根気が必要な仕事です。
報告と期日が重なる時期
成年後見の定期報告は案件ごとに時期が異なり、相続財産の管理に関する報告も、家庭裁判所から指定された時期に合わせて進めます。そこに裁判の期日や書面の提出期限が重なると、いくつもの準備を同時に進めなければなりません。
弁護士に確認してもらう時間も見込み、提出が近づく前から資料をそろえておく必要があります。一つの遅れがそのまま期限に響くため、早めの段取りが欠かせない場面です。
応募前に確認したいこと

法律事務所と一口に言っても、扱う分野も事務員の働き方も事務所ごとに違います。入ってから「思っていた仕事と違った」とならないように、応募の段階で確認しておきたいことをまとめました。求人票に書かれていなければ、面接で質問してもよい内容です。自分に合う事務所を選ぶための材料として、次の4つを見ておいてください。未経験の方ほど、仕事の中身と教わり方を具体的に聞いておくと安心です。
取り扱う分野
企業の契約や顧問業務が中心の事務所と、債務整理や相続など個人の依頼が多い事務所とでは、事務員の仕事は大きく変わります。
私が経験してきたのは、個人の方からの依頼が中心の分野でした。この記事の内容も、そうした事務所での経験として読んでいただければと思います。
事務員の人数と役割分担
秘書とパラリーガルで担当を分けている事務所もあれば、一人の事務員が秘書業務から経理まで兼ねる事務所もあります。面接では、次のような点を聞いておくと働く姿がイメージしやすくなります。
- 事務員は何人いるか
- 担当する弁護士は何人か
- 電話対応はだれが受け持つか
- 総務や経理の仕事も含むか
仕事を教わる体制
未経験から入るなら、仕事をどうやって覚えるかはとても大切です。先輩の事務員から引き継ぎを受けられるのか、事務所内のマニュアルがあるのか、研修を受けられるのかを確認しておくと安心です。
日弁連も、新人向けの研修や、新しく入所する職員向けの冊子「今日から弁護士秘書」を公開しています。
資格は入ってからでも間に合う
法律事務所の事務員として働くのに、応募前に必ず必要な資格はありません。先ほどお伝えしたとおり、日弁連の事務職員能力認定試験も、働き始めてから目指す試験です。
パソコンに不安がある方は、WordとExcelの基本操作から始めておくと、入ってからの負担が軽くなります。資格より先に、仕事の中身を知っておくことが、未経験から応募するときの一番の準備だと思います。
よくある質問

最後に、法律事務所の事務員に興味がある方が抱きやすい疑問にお答えします。私が法律事務所で働いてきた経験と、日弁連が公開している情報をもとにした回答です。事務所の規模や扱う分野によって、実際の仕事や求められることは変わります。すべての事務所に当てはまるわけではありませんので、一人の経験としてお読みください。応募を考えるときの判断材料になれば嬉しいです。
法律の知識がなくても働けるか
未経験から働くことは可能です。私自身も、法律事務所では未経験から始めました。ただし、募集条件は事務所ごとに異なるため、求人票の応募資格を確認しましょう。最初に任されやすいのは、電話の取り次ぎや郵便物の発送、書類の整理など、一般事務の経験が活きる仕事です。知識より先に求められるのは、分からないことを確認しながら丁寧に進める姿勢だと感じています。
応募前に取るべき資格はあるか
必ず必要な資格はありません。日弁連の事務職員能力認定試験は、出願の時点で法律事務所に勤務する事務職員、または公務所や企業その他の団体で弁護士の事務を補助する人が対象です。そのため、法律事務所等で弁護士業務を補助していない一般の求職者が、就職前に取得しておける試験ではありません。パソコンに不安がある方は、WordとExcelの基本操作に慣れておくと安心です。
パラリーガルと事務員の違い
日本では「パラリーガル」という呼称や担当範囲は、事務所によって異なります。一般には、専門性の高い法律事務の補助を担当する職員を指すことが多く、秘書業務と分ける事務所もあれば、一人が両方を担当する事務所もあります。いずれの場合も、弁護士の指示と監督のもとで補助を行います。
電話対応が不安でも大丈夫か
最初から完璧にこなせる人はいません。大切なのは、自分で答えようとしないことです。聞いた内容を正確にメモし、弁護士につなぐことを意識すれば、少しずつ落ち着いて対応できるようになります。言葉遣いに不安がある方は、秘書検定の勉強も役に立ちます。
一般事務の経験は活きるか
活きます。書類の作成、電話応対、お金の管理、スケジュール管理など、一般事務で身につけた力はそのまま使えます。私も、前の職場で身についていた仕事ぶりが、法律事務所での土台になりました。そのうえで、期限の重さや権限の線引きといった違いを意識できれば十分です。
まとめ

法律事務所の事務員は、未経験からでも始められる仕事です。ただし、どれだけ経験を積んでも、事務員の仕事は弁護士の指示と監督のもとで行う補助だということを忘れてはいけません。
- 仕事は秘書業務と手続きの補助
- 一般事務との違いは期限と線引き
- 未経験でも始められる仕事がある
- 判断するのは必ず弁護士
- 向いているのは誠実に確認できる人
- 認定試験は働き始めてから受験
法律の知識は、働きながら身につけられます。最初に必要なのは、確認を惜しまず、線を越えず、支えることを大切にできる姿勢です。その姿勢があれば、未経験からでも弁護士に信頼される事務員を目指せます。
法律事務所以外の事務職とも比べてみたい方、電話応対や言葉遣いに不安がある方は、こちらの記事もあわせてどうぞ。
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